山栗とともに生きたぺぺとシロ

むかしむかし大和の国、東和という村にとても心優しい少年が住んでいました。

その少年の名はぺぺといいます。

ぺぺはポルトガル宣教師と地頭の娘との間に生まれた一人息子でしたが…

幼い頃から自分に自信が持てない内気な子供でした。

異国の父を持ったぺぺは、青色の目があだとなっていました。

村の子供たちはぺぺをみるなり、

やーい、青目のお化け…青目のお化け…とからかわれるぺぺは何一つ言えない弱虫でした。

自分の気持ちを何一つ言えない子だったそうです。

そんなぺぺは…

幼い頃からずっと一人ぼっち…

やがて村の寺子屋に入ったぺぺの唯一のお友だちはシロという犬で、他には友はいません。

ぺぺとシロは、人と犬という関係ではなく同じ仲間であるかのようでした。

そんなシロとのご縁は…

大きなクマに追いかけられるぺぺを必死に追い払ってくれたことから仲良しになりました。

秋の夕暮れに近くの山で山栗を拾っているぺぺ…

背後から近づく大きなクマ、

どうやら、かごの中の山栗を奪おうしていました。

甘い山栗はクマにとって大好物です。

鼻息を荒々しくしたクマに気づいたぺぺは頭を上げると、

そのクマは間近に迫っていてどうすることもできないぺぺでした。

その時です。

真っ白な犬が草むらから飛び出してぺぺの前に立ちふさがったのでした。

小さなやせ細っていたにもかかわらず、全身の力をふりしぼるかのように大きな大きな遠吠えでクマを追い払ってくれたのでした。

この山には山栗の木々がいっぱい、秋には甘い山栗がたくさん実り、昔から村人たちの大切な収入源になっていました。

ところが、その山栗の取り合いで村人たちの間では争いが絶えません。

争いで死人も出るほどです。

そこで、怒った山の神様は、その山でいちばん強いクマを置くことにしました。

それ以来、山に近づく村人はほとんどいなくなりました。

人々の消えた山は荒れ放題…

ずっと長い間、山はクマだけのえさ場に変わっていたのです。

あれほど甘い山栗をクマたちのエサにしておくのは…もったいないと考えた村のある男は、山奥へ入って行きました。

反対する村人の意見に聞く耳を持たない男は、たくさんの山栗をひとりじめに、たくさんのお金を手にしました。

その後も男は何度も山奥へ入り、我が山のように好き勝手に荒らし放題でした。

その男は山栗を求めてさらに山奥に入って行きましたが、帰ることはありませんでした。                

帰らぬ男を村人たちはクマに殺されてしまったのよ。あの欲張り男、

山の神様の罰に当たった、といううわさが村中に広まりました。

だが、その山の神様の怒りは収まることはありません。

毎日、毎日、雨が降り続き、実りの秋でありながらも田畑の収穫が出来ない村人たちは困り果てていました。

実ったお米や野菜はほとんどが腐ってしまいました。

村人の多くは食べ物の蓄えがなくなり、生活はどん底になりました。

子ども達に食べさせる物もなくなり、飢え死にした人達も少なくありません

東和は、大きな川にはさまれていたことから、むかしから洪水の多い村であったことは知られていたのですが、こんな大水害は初めての経験でした。

村人達は、この大水害による東和の大飢饉と名付けたほど村にとっては深刻なものとなりました。

そんな村人たちをみたぺぺは何か良い手はないものか?

思案しながらぺぺとシロは村中を歩き回っていましたが、なかなか良い解決策を見つけ出せません。

ある時、山奥で、たくさんの山栗が実った古木を見つけたシロは、ペペのもとに走り寄りました。

シロはペペに、その知らせを伝えようとペペの服をかんだり、吠え続けたりと、必死に伝えようとしました。

シロ、何か言いたいことがあるの?と、不思議に思ったペペは、シロの後をついて歩き出しました。

シロは山の奥へ、奥へと、ペペを案内していきました。

すると、1本の古木を見つけたのです。古木とは言え、山栗がたくさん実っていました。

その時です。

ペペとシロはどこからか山の神様の声を聞きました。

その山の神様は言いました。

ペペとシロや、この木に実った山栗を一粒ずつ食べてごらんなさい。

そこで山栗を口にふくむと、その美味しさは、不思議にもほっぺが落ちるほどでした。

その時、ペペは考えました。

こんなに美味しい山栗をあの男のようにひとりじめにはできない。お腹を空かせた村のお友だちに分けてあげたい。

しかし、1本の古木では、村中のお友だちに分け与えるには少なすぎると考えると、

ペペとシロや、今の正しい心を持ち続けなさい。

そして、もう一つ不思議なことがおこりました。

山の神様に導かれるようにペペは青年に、犬のシロは若い娘に変わりました。

むかしのような内気でいじめられっ子のペペではありません。自我を捨て人のため世のために生きようとする心の成長を山の神様が高く評価してくださいました。

山の神様は言いました。ペペとシロや、この山栗を山中に植えなさい

その数500個以上になり、これが芽を出し、成長してやがて実れば、村の人々を救うことができると、ペペとシロは丁重に一つまたひとつ植えていきました。

全ての山栗を植えおえた頃には日は西に傾いていました。

私達の植えた栗が全て実ってくれたらならば、どんな洪水が来ようと村人たちは餓死することはないと考えながら山をおりていきました。

そんなペペの優しい気持ちは、貧しい家庭で育てられた環境の中で生まれたもの

やがて3年の月日が流れ、その間にペペとシロは夫婦となっていました。

必ず、洪水による大飢饉からこの村を救うと決心をして、

山を降りたペペとシロは、一軒一軒回り村人達に伝えようとしても全く相手にされず、なかには、馬鹿たれ、うそをいうでねえ、あの欲張り男ならともかく、誰が山さへ入るものがおるか?

お前達もあの欲張り男と同じだ、俺達はお前達のようなよそ者の話は聞きたくない、早う帰れ、もう二度とこの村には近づくな。

村人達は今の二人があの頃の少年のペペと飼い犬のシロであることを知るわけもありません。

ペペは、自分の良心が伝わらず、自分の無力さに力を落としてしまいました。

また、山の神様を恨みたい気持ちになっていたペペの心に、シロは気づきました。

ペペ、私達は、きっと山の神様から大切な使命を受けているのよ。私達は、必ずやり遂げられると選ばれているのです。

だからこそ、負けてはだめよ。

ペペ、これは山の神様からの第一の試練、きっと、その試練はまだ続くと思う。

私達の真心が村々に伝わる日までは頑張らなければと、シロの悟った心に勇気づけられたペペは冷静さを取り戻しました。

それからというもの、ペペは人が変わったかのように、毎日山へ出かけては山栗の世話に一生懸命、シロはそんなペペが大好きになりました。

山栗の木も成長して、山奥に植え付けた500本は立派に山栗を実らせました。

これで村人は私達のことを信じてくれるとペペとシロは山栗の収穫に忙しい毎日、

この山の神様からいただいたあの甘い山栗そのものでした。

今日も早朝から最後の収穫にペペとシロは仲良く山へ向かっていました。

その時です。曲がりくねる山道を早馬が通りかかり、それは一瞬の出来事でした。

シロはペペを押しぬけると、早馬に跳ね飛ばされてしまいました。

驚いたペペはシロを抱きかかえました。

血だらけに横たわったシロには、もう起き上がるだけの力はありません。

最後の力をふりしぼるかのように、首を上げたシロ、

無事だったぺぺを見ると…

安心したかのように息をひきとりました。

シロはぺぺを早馬から守るために命を落としてしまったのです。

これは、山の神様から与えられた第2の試練とは言え、一人ぼっちになったペペは、

そのショックから何も手がつかなくなってしまいました。

それ以来ずっと…一人ぼっちのペペは、在りしの二人での夢のために、ひたすら、山栗の世話を一生懸命頑張り続けました。

お陰で毎年、立派な山栗が実りつつ、ペペも山栗同様に立派な男に成長し、村人達からも信頼される村長になっていました。

それから15年の歳月が過ぎたある朝のことです。

ぺぺは、あの細い山道をいつものように歩いていると、どこからともなく「ワン!ワン!!」犬の鳴き声が聞こえてきました。

ぺぺは周囲を見渡すも、どこにも犬は見当たりません。

急いでいたぺぺ…その日は山へ急ぐのでした。

ところが、次の日も昨日と同じところまで来ると、 ワン!ワン!

その鳴き声はどこかで聞いたことがあるような懐かしさを感じたぺぺでした。

その犬はぺぺをめがけて飛びつき、決して離れようとはしません。

それに、いつかのあの時のようにペペの服を咬んだり、吠え続けたり、何かを必死に伝えようとするその犬に案内されるかのように後ろをついていきました。

すると、たくさんの山栗が実っていたあの古木の前で止まるその犬に驚いたペペは、再び、いつかの山の神様の声を聞きました。

ペペとシロや、良くぞ、ここへ来てくれた。おまえ達は、わしとの約束を守ってくれた。

おまえ達の努力で荒れた山も美しく変わり、むかしのような山栗に満ちあふれた立派な山にもどることができた。

これで、再び、この村に大飢饉が来ようとも村人達は決して飢えることがなくなるにちがいない。

ペペとシロの勇気と真心は天の神様に通じるだろう。

ペペとシロや、良い知らせを待っていなさい、と山の神様がつげると、

またもや、不思議なことが起こるのでした。

先ほどまでいた犬がシロになり、ペペとシロは涙を流しながら再会を喜び合いました。

この奇跡で再び、二人は仲の良い夫婦になれました。

おわり

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